本当の本当に日本人なんです!」Rayarkの日本人代表!───萌音 Mone
小雨がしとしとと降るある日の午後、マスクで顔が半分隠れたMoneが会議室に現れた。まもなく日本で開催されるRayark Wonderland(註1) の打ち合わせの合間のわずかな時間を使って、私たちのインタビューに応じるためだ。マスクの上から覗く目は少しの疲れを感じさせるものの、いつもの笑みは消えていなかった。「土曜日には、日本で司会者として舞台に立つので、今のうちに喉をいたわっておかないと……」くぐもった声ですらすらと話すMoneの中国語は、ほんの少しだけ日本人なまりが感じられる。
綺麗に結い上げられた髪、手入れの行き届いたネイル、そして、ひざ下まであるスカートを着こなし、ヒールを履いたMoneは、まさに「日本人女性」といった様子だ。埼玉県出身の彼女は、もうすでに台湾生活8年目、Rayarkに入社してからは4年目を迎えるという。現在は、日中翻訳・通訳及び日本担当事務の仕事をしながら、同時に翻訳チームの長としても働いている。
「Rayark?DEEMOの会社なんだ」───Rayarkとの縁
彼女は、高校時代、大学では語学を学びたいと決めていたそうだ。大学もその方向で志望校を絞っていた。そんな時、両親から「どうせ外国語を勉強するなら、いっそ現地で勉強すればいいんじゃない?」と言われたことをきっかけに、彼女の運命の歯車は動き出した。「最初は、正直なんの言語を学びたいかもはっきりしていなくて、ただ単純に外国語の勉強がしたいなって思っていたんです。高校の時は、国語の成績が一番良かったので(?)。中国語はこれからどんどん重要性も高まりますし、両親が当時台湾で仕事していたこともあって、台湾に来ることに決めました。」
Rayarkとの初めての出会いは音楽ゲーム《DEEMO》(註2) だったという。日本にも数多くのファンを持つ《DEEMO》、MoneはRayarkの募集要項を見て、それがDEEMOの開発会社だと知り、驚いたそうだ。「好きなゲームの開発会社に就職できるなんて夢みたいな話ですよね。当時は自分がDEEMOの開発に関われるなんて夢にも思っていませんでした。」と目を輝かせながら語る彼女は、本当に心から喜んでいるようだった。
翻訳者って、ゲーム翻訳だけじゃない」───Rayarkの翻訳者
2016からRayarkは経営のグローバル化を進めている。日本市場の重要性が高まるにつれ、Moneの仕事内容も多元化してきた。Rayarkのゲーム、SNS、動画、出版物、全て関わり方はそれぞれ異なるにせよ、多少なりともMoneが携わっているのだ。台湾に来て、まだ社会に出たことのなかった彼女は、入社当初は様々な壁にぶち当たったという。だが、自らの努力と持ち前の適応力や語学力を駆使して、その壁を乗り越え、今では一つのチームを請け負うまでに成長した。
Rayarkの翻訳と他社の翻訳で異なる点はないかと聞いたところ、「ゲーム会社によっては、ローカライズは他社に委託するところもあります。基本的に、翻訳者はテキストや資料を受け取って翻訳していく形になるんですけど、場合によっては登場人物の性別が分からない!なんてこともあり得るんです。あとは、この登場人物たちが会話している時、対象物は目の前にあるのか、もしくはどこか他の場所に置いてあるのか、会話の相手は向き合った状態で話しているのかなど、想像で済ませなければいけないことも多く、その結果、男性キャラが女性口調になってしまったりなどなど……日本語の場合、これらの情報が直接訳文に影響してしまうんですよね。」
日本語と中国語の言語の違いを語る彼女の目には強い光が宿っていた。「日本語」という言語は彼女にとってただの母国語ではなく、何事にも代えられない「専門」なのだろう。
「でも、Rayarkでは、ほとんどのプロジェクトで、翻訳を始める前に開発チームと脚本について打ち合せを行います。そこでライター本人にストーリーの流れを説明してもらい、文字だけでは読み取れない背景や情報を得るんです。今後のストーリーの展開などもある程度把握しておくことによって、意訳してもストーリーがぶれることを防げます。あとは、この時この登場人物はどんな意図をもってこのセリフを言ったのか、など分かっていれば、より翻訳に役立ちます。」日本語は非常な繊細な言語である。同じような状況下でも、少し言い方が変わるだけで、ストーリー全体に影響を及ぼしてしまうこともあるのだ。また、日本の文化はこうした文字だけでなく、衣服や、口調、さらには色使いにまで表れている。「例えば、初めてその登場人物について翻訳する時、まずはキャラクター設定を見ますよね。やっぱり日本人が設定を考えているわけではないので、間違った日本文化や違和感を感じる日本文化が取り入れられている時があるんです。そういった場合は、正直に開発チームに伝えて、一緒に方向性を考え直します。」とMoneは語った。
「自分はただテキストを翻訳するだけじゃなくて、一緒にゲームを作っているんだなと感じられる瞬間ですね。」
「最初は、ゲーム会社の翻訳者は、ただインゲームテキストを翻訳するのが仕事だと思っていました。でも、Rayarkで働いてみて分かったんです。翻訳者ができる仕事って翻訳だけじゃないんだなって。新しいことに挑戦し続ける日々は、刺激的で、毎日楽しいです。」提携会社とのメールのやり取り(コンポーザーに楽曲製作依頼、コラボ先との窓口)から、動画の翻訳(ゲームの新情報、キャラクタースキル動画)、文章の翻訳(小説、プレスリリース、SNS)など、簡単で身近な物から、ビジネス関連まで、文字の翻訳だけでこれだけの種類がある。その他にも、日本人プレイヤーの動向を観察したり、日本からの客人の対応をしたり「大型イベントの司会まで任されてしまうのは、さすがに予想外でしたけど(笑)」と笑いながら語ってくれた。
「Rayarkのゲームに携わっている人たちはすごい人たちばかりで日々驚きの連続です。例えば、私はこれまであまり声優さんには詳しくなかったんですけど、《Sdorica (スドリカ)》(註3) の開発にあたって、たくさんの声優さんを知ることになりました。」と語るMoneは、数名の名前を挙げてくれたが、日本の第一線で活躍する超有名声優ばかりであった。中でも印象に残っているのはジャハーン(註4) とハイド(註5) のボイスを担当した子安武人さん(註6)だそうだ。
「ジャハーンの収録の時は、本当に良い意味で予想外でした。元々開発チームが想定していた話し方が100%だとすると、120%の出来でしたね。例えばスキルを発動する時に『これが我が宿命(さだめ)か…』というセリフがあるんですけど、急に歌いだしたときは声に出して笑いました。かと思えば、反撃の時のセリフは急に声が低くなったり、あんなに笑った収録は後にも先にもあの時だけです。ジャハーンのことをよく理解してくれているなと感じました。ジャハーンに命を吹き込んでくれたんです。」
「これもRayark翻訳者の特権(?)ですね。人気声優さんの収録現場が覗けちゃいますよ!なんちゃって(笑)」
Rayarkに来て3年、何か思うことはないかと聞いてみたところ、「Rayarkは設立してまだ8年です。会社自体もまだまだ成長段階といっていいと思います。その中で、私も会社と一緒に成長し、翻訳だけでなくその他のスキルもどんどん強化されていると日々感じます。」
「台湾にいながら、これまでよりさらに自分の国についての理解を深めている」───ゲーム翻訳のあれこれ
「これまで翻訳した中で一番辛かったキャラクターですか?ヤンボー (註7) ですかね(笑)ヤンボーのセリフのために和歌や俳句を漁りまくりました!」ゲーム内で、ヤンボーは漢詩をよく用いる。日本でも漢詩はなじみのあるものだが、やはり中華系の人々に比べれば、それほど身近なものではないだろう。それを踏まえて開発チームと相談した結果、Moneはより日本人に身近な和歌を用いることに決めたそうだ。
「日本人とは言えども、さすがにそんなに多くの和歌は把握していません。しかも、ヤンボーは上の句と下の句で違う詩を混ぜてくるんです。そのため、まずは中国語版はどのような意図をもってその詩を選び、何を伝えたいのか理解する必要があります。それをしっかり理解した上で、日本の和歌の中から合うものを選ぶんです。上の句と下の句別々にね。」例えば、中国語では『但願人長久 (註8),楓葉落紛紛 (註9)』だった内容を彼女は『花の色は 移りにけりな いたづらに(註10) 憂き世になにか 久しかるべき(註11)』と訳した。この2つは共に物事の儚さを意味している。
「Sdoricaはキャラクターが個性的な上に、数も多いんです。どのようにそれぞれのキャラを立たせるかが私たち翻訳チームの課題でした。例えば、アンジェリア(註12)は王女様なので、怒っていても優雅さを残す必要があります。『別想傷害我的同伴!』というセリフは『私の仲間を傷つけることは私が許さないわ!』と訳しました。語尾に『わ』をつけることで上品さが出ているかなと思います。気の強い男の子だったら、『オレの仲間は傷つけさせねぇ!』とか『オレの仲間には指一本触れさせねぇ!』にすると同じ意味合いのセリフでも違って聞こえてきますよね。」
Moneが口にしたそのセリフは、なるほどよくアニメなどで耳にするお嬢様口調だ。「今時、普段の生活で『~だわ』なんて話し方をする人はほとんどいません(笑)でも、イメージの問題ですね。このような話し方を聞くと上品な女性をイメージできるんです。」
Moneはさらに第一人称についても補足してくれた。中国語では第一人称は統一して「我」だが、日本語ではこれもキャラクターのイメージを決める重要な要素になるのだそうだ。「例えば、ナイジェル (註13) はかっこいい系の男性キャラなので、第一人称は普通に漢字の「俺」を使い、エリオの場合は (註14) 割と温厚な柔らかい印象を与える少年なので「僕」、リュー (註15) の場合は子供感を強く出すためにひらがなで「ぼく」としました。リューに関しては、セリフも漢字を少なめにしています。」日本のACG(註16) におけるキャラクター設定の確立は、特殊な進化を遂げており、翻訳時にはそれをうまく落とし込むのも表現の一つとして重要な役割を果たしているのだろう。
「プギ(註17) の場合は、わざと行替えをせずに句読点も最小限にすることで、あのうるささを表現したりもしています(笑)《Cytus ll》(註18)のConneR (註19) は難しい言葉を多用する学者キャラなので、もっと厭味な難しい言い回しはないかなと辞書といつもにらめっこしています(笑)例えば、『他鄉遇故知』これは、割と有名な言葉ですね。さすがに中国語のままだと読めないので、書き下し分風に『他郷にて故知に遭う』と訳しました。」そして、さらに他のキャラクターならどうなるかも語ってくれた。「これが例えば [NEKO#ΦωΦ] (註20)だったら、きっと彼女は中国語のそんな難しい言葉は知らないので(笑)『知らない土地で急に昔の知り合いに会ったみたいな気分だよーΦωΦ』。みたいな感じですかね?元々彼女のセリフではないので多少無理はありますが、雰囲気的な意味では。」
「ゲーム翻訳の際には色々なキャラクターの魅せ方を知っていた方が良いということになりますね。」
「Rayarkでの仕事が楽しすぎて、日本の友人に仕事でストレスがたまる訳を聞けない。」───Rayarkにおける日本人
「日本では多くの会社が新卒社員を一気に入社させます。台湾のように仕事を探したい時に探して、会社も人材が必要な時に募集をかけるといった形ではありません。なのでいわゆる同期というものが存在します。同期どうしではご飯に行ったり、関わりを多く持つかもしれませんが、他の部署の上司と仲良くなることはそうそうないでしょう。上下関係もはっきりしています。」Moneは日本の職場環境も徐々に改善されてはいるようだが、そう簡単には変わらないだろうと補足した。「学生時代の友人と仕事の話になった時、友人は仕事がかなりのストレスだと言っていました。ですが、私はあまりこの手の話題にはあまり自分から触れないようにしています。友人が苦しんでいるのに、自分だけこんなに楽しく仕事をしているのがなんだか申し訳なくて……」とMoneは苦笑いしながら語ってくれた。
彼女が言うには、Rayarkは社員同士の仲が非常に良いそうだ。同年代の同僚だけに限らず、上司も含め、時間のあるメンバーで仕事以外の時間でも一緒に旅行へ行ったり、ボードゲームで遊んだりしているという。「うちのチームはほとんどが外国人なんですけど、みんな私たちを台湾人として扱ってきます(笑)」と楽しそうに語ってくれた。
どうやってその中国語能力を身に着けたのかと聞けば、「レジスタンス・アヴァロン (註21) で鍛えられました(笑)言ってしまえば、人を騙すゲームじゃないですか。嘘をつくって語学能力が必要なんです。中国語でみんなを説得する練習をしているうちに、中国語も上達してました。」今回のインタビューに参加していた社員も、Moneの母国語ではない中国語を巧みに操って全員を騙す能力には脱帽せざるを得ないと付け加えた。
「Rayarkでは、遊びと仕事が一体化している、とういう感じがします。ゲーム会社なので、Rayarkerは翻訳者に限らず、良いゲームを作るためにも遊び心を忘れてはいけません。最初はゲーム業界に詳しくなくてもいいんです。入ってきてから、ゲームを好きになってください。」
Mone は、一般的に翻訳のジャンルは3つに分けられることが多いという。ビジネス翻訳、文芸翻訳、映像翻訳だ。「でも、Rayarkでは、ゲーム翻訳の時点でこの3つのジャンルから外れるんです。いや、すべて含まれているという方が正解かもしれません。」ゲーム翻訳には、システムメッセージ(ビジネス翻訳)、シナリオ(文芸翻訳)、ムービー(映像翻訳)、そしてさらにキャラクタースキルなどのどこにも分類されないものが含まれているのだ。「Rayarkで翻訳者として過ごす日々は本当に楽しいですよ。ゲーム翻訳以外にも様々なことに挑戦させてもらえますから。違った角度から自分の能力を鍛えていくことができます。ACGが好きな人はきっとこの仕事も好きだと思います。」
未来の仲間に対して何を望むのかと聞いたところ、「日本人の水準以上の日本語能力を持った方が望ましいですね。あとはACGが好きな方だとより好ましいです。翻訳は一つの言語に優れていればいいというわけではなく、両方の言語に優れていなければ勤まりません。日本語を自在に操れる方、あっ、私より日本語がうまい方がいいです(笑)」と大きな目を三日月形に細める彼女は、笑いながら語った。
そこにいたスタッフ全員が笑い声をあげ、温かい雰囲気の中、今回のインタビューは終了した。
語は人と人をつなぐ架け橋だ。書籍や映像、文字、ゲームに限らず、人々は自らの慣れ親しんだ言語を通してそこに記される内容を理解しようとする。そこに言語の橋をかける仕事、それこそが「翻訳」の仕事である。ゲーム翻訳とは、ただ単に文字を翻訳するのではない。開発者の熱意を、さらには希望をプレイヤーに届ける仕事なのだ。Moneは、Rayarkの頼りになる翻訳者でありながら、この巨大な家族の中で共にゲームを作り上げていく一員、わが社自慢のRayarkerである。
【Rayark募集要項】日中翻訳・通訳
■ 仕事内容
- ゲーム関連文章の和訳(ゲーム内ストーリー、セリフ、UI、キャラクタースキル等)
- 日本語のゲーム関連資料の校正
- 広告、マーケティング関連文章の和訳
- 日本のゲーム市場と日本人プレイヤーの動向の観察
- 会議通訳(中→日、日→中)
- 事務用書類関連業務
- 会社の各イベント支援
■ 求められる能力
- 日本語、中国語能力の優れている方
- 日本語が母国語の方優先
- 翻訳経験があると尚佳
- ゲーム業界に興味があると尚佳
- 普段からスマホや据え置き型問わず、ゲームに馴染みがあると尚佳
- アニメやマンガ、小説に馴染みがあると尚佳
- Office/ Google docの使用経験があると尚佳
- コミュニケーション能力と自己判断力のある方
- 積極的で、責任感がある方
もっと見る:https://careers.rayark.com/zh/jobs/other/